「意図のない球は1球もない」
黒田博樹が見せる「最後の勇姿」を前に。
黒田博樹投手の引退。「決めて断つ」「クオリティピッチング」の2冊を刊行した編集部の思い出
■黒田博樹投手の「記憶力」
最後になるかもしれない――。
この日本シリーズには熱い戦いとは裏腹に、例えようのない物悲しさがあります。黒田博樹投手が日本シリーズをもって引退する。その一報は日本のみならず、アメリカでも報道され、それを惜しむ声、歩みをたたえる声があとをたちませんでした。
最後になるかもしれない。黒田博樹投手の2冊の著書『決めて断つ』、『クオリティピッチング』を担当させていただいた編集部による、だから、最後のコラムです。
編集部が黒田投手と書籍をつくる過程でもっとも驚いたことは記憶力です。男気や、勝利(試合を作ること)への執念といった部分がフォーカスされることが多い黒田投手ですが、実はこと野球に関してはものすごく緻密で、そのベースとなるいろいろなシーンを記憶しています。
もしかするとファンの方は、ピッチャーならば1球1球を覚えていることは当たり前だと思われるかもしれません。しかし、いろいろな選手を取材していると、細かい投球(打席)まで覚えている選手のほうが少ないことが分かります。それは、決して悪いことでもなんでもなく、マウンド、グラウンド上で集中力を高め、俗にいう「ゾーンに入る」ような状況になっているため、その後振り返ってもはっきりと覚えてはいないだけのことです。
さて、そんな選手たちもいる中で、黒田投手は1球1球をとてもよく覚えていました。『クオリティピッチング』という本を作ったときのことです。